アキレス腱断裂とは
「後ろから蹴られた」ような突然の衝撃 ― 原因・治療の選択肢・復帰までの目安
- アキレス腱断裂が起こるしくみと、なりやすい人・場面
- 「断裂かも?」と思ったときのサインと、すぐにしてほしい対応
- 手術する治療としない治療、それぞれの特徴と選び方
- スポーツ復帰までの流れと、再発を防ぐポイント
アキレス腱断裂とは
「ふくらはぎを後ろからバットで叩かれたような衝撃があった」「パンという音がした」― バドミントンやバレーボール、ソフトボールなどの最中に、突然こんな感覚に襲われるのがアキレス腱断裂です。
運動不足の状態で急に動いた週末のスポーツや、久しぶりの運動会・レクリエーションで起こることが多く、30〜50代の「まだ若いつもり」の世代に多いのが特徴です。ふくらはぎから踵(かかと)につながる体内で最も太い腱が切れてしまう怪我で、早めの診断と適切な治療がとても大切です。

こんな症状はありませんか?
- 踏み込んだ瞬間、踵の後ろを蹴られた・叩かれたような衝撃があった
- 「パン」という断裂音や、何かが切れた感覚があった
- 踵の上あたりを触るとへこみ(くぼみ)がある
- つま先立ちができない、または力が入らない
- 歩くことはできるが、足を蹴り出す力が弱い
「歩けるから大丈夫」とは限りません。アキレス腱が切れても、他の筋肉の働きで足首を動かせることがあり、断裂に気づかれないことがあります。思い当たる症状があれば、なるべく早く受診してください。
アキレス腱とは?
ふくらはぎと踵をつなぐ、体で最も太い腱
アキレス腱は、ふくらはぎの筋肉(腓腹筋とヒラメ筋)が踵の骨(踵骨)につくところの腱です。歩く・走る・跳ぶときに、足首を下に蹴り出す力を伝える「ばねとロープ」の役割をしています。
とても丈夫な腱ですが、踵の骨から2〜6cmほど上の部分は血流が乏しく、傷みやすい場所です。長年の負担で腱が少しずつ弱っているところに、急な力がかかると断裂しやすくなります。
アキレス腱断裂の原因
- 急なダッシュ・ジャンプ・踏み込み ― 蹴り出す瞬間に、腱に大きな力が一気にかかります。
- 運動不足・準備運動不足 ― 久しぶりの運動で、ふくらはぎが硬いまま動き出すと負担が集中します。
- 加齢による腱の変化 ― 年齢とともに腱の柔軟性や血流が低下し、傷みやすくなります。
- アキレス腱炎などの既往 ― 以前から踵の上に痛みや違和感があった方は、腱が弱っていることがあります。
- 薬の影響 ― 一部の抗菌薬(ニューキノロン系)やステロイドの使用が、腱断裂のリスクを高めることが知られています。
断裂は「たまたま運が悪かった」だけではなく、日頃の腱の状態が関わっています。決してご自身を責める必要はありません。治療と再発予防をしっかり行えば、多くの方がスポーツに復帰されています。
アキレス腱断裂の症状
断裂の直後は強い痛みがありますが、時間がたつと痛みが落ち着き、「思ったほど痛くない」と感じる方もいます。腫れや皮下出血(あざ)が出て、踵の上のくぼみや、つま先立ちの困難が目立ってきます。
| 状態 | 症状のめやす |
|---|---|
| 部分断裂 | 痛みや腫れはあるが、つま先立ちは何とかできる。腱の一部が傷んでいる状態。 |
| 完全断裂 | つま先立ちができない。踵の上にくぼみを触れ、足首を下に蹴る力が弱い。 |
| 陳旧性(放置) | 断裂に気づかず時間が経過し、腱が伸びてしまった状態。治療が難しくなります。 |
ふくらはぎの肉離れやアキレス腱炎と間違われることがあります。「ふくらはぎを痛めただけ」と思い込んで受診が遅れると、腱の両端が離れて治りにくくなることがあります。強い衝撃や力の入りにくさがあれば、早めにご相談ください。
検査・診断
多くは問診と診察でおおよその診断がつきますが、当院では以下の検査を組み合わせ、断裂の程度や他の病気との区別も含めて正確に診断します。
| 検査 | わかること |
|---|---|
| 問診・触診 | 受傷時の状況(衝撃・断裂音)、踵の上のくぼみ、圧痛の有無を確認します。 |
| 動作評価 | ふくらはぎをつまんだときに足首が動くかを見る「トンプソンテスト」や、つま先立ちの可否で断裂を判断します。 |
| X線(レントゲン) | 腱そのものは写りませんが、踵の骨の剥離骨折など、骨の異常がないかを確認します。 |
| 超音波検査(エコー) | 腱の断裂部位・断端の離れ具合を、その場でリアルタイムに確認できます。足首を動かしながら、断端が合う位置も調べられます。 |
| MRI検査 | 部分断裂か完全断裂かの判別や、腱の変性の程度を詳しく調べます。当院は横になって受けられるオープンMRIを備えています。 |
当院での治療
アキレス腱断裂の治療には、手術をしない保存療法と手術療法があり、断裂の状態、年齢、活動レベル、お仕事、ご希望などを踏まえて一緒に相談して選びます。
受傷直後の応急処置と固定
まずは安静と冷却を行い、腱の両端が近づく「つま先を下げた位置(尖足位)」でギプスや装具により固定します。受傷後はできるだけ早い受診をおすすめします。
保存療法(装具を使った早期リハビリ)
近年は、腱の断端が良い位置で合っている場合、手術をせず、装具で足首の角度を調整しながら早めに体重をかけていく方法でも、手術と近い成績が得られることが報告されています。感染などの手術に伴う合併症を避けられる利点があります。
手術療法
断端が離れている場合や、早期にスポーツへ復帰したい方、再断裂のリスクを少しでも下げたい方では手術が選ばれることがあります。手術が適していると判断した場合は、連携する医療機関をご紹介します。
リハビリテーション(運動療法)治療の柱
保存・手術のどちらでも、回復の鍵はリハビリです。理学療法士が、腱の治癒段階に合わせて段階的に進めます。
- 足首の可動域の回復と、歩行の再獲得
- ふくらはぎの筋力トレーニング(つま先立ち・ジャンプ動作へ段階的に)
- ランニング・競技動作への復帰と、再断裂を防ぐための体づくり
薬物療法・ハイドロリリース・体外衝撃波治療(ESWT)
急性期の断裂そのものに対して、ハイドロリリースや体外衝撃波治療を行うことはありません。回復後に残る周囲の癒着・こわばりや、腱の慢性的な痛みに対して、成人の方で必要に応じて検討します。成長期のお子さんには原則行わず、成長の状態を確認しながら慎重に判断します。また、腱へのステロイド注射は、腱が弱って断裂するリスクがあるため原則行いません。
復帰までの目安は、日常生活で数か月、スポーツへの本格復帰は半年前後(競技やレベルによって異なります)です。「痛みが消えた=治った」ではなく、腱の強さと筋力が戻ったことを確認してから復帰することが、再断裂を防ぐうえで大切です。
日常生活で気をつけること/予防
- 運動前のウォームアップ ― ふくらはぎ・アキレス腱を十分に温め、ゆっくり伸ばしてから動き始めましょう。
- ふくらはぎの柔軟性を保つ ― 入浴後などに、毎日のストレッチを習慣にしましょう。
- 踵の上の違和感を放置しない ― 朝の動き始めの痛みや腫れは、腱が弱っているサインかもしれません。
- 久しぶりの運動は段階的に ― 最初から全力で走ったり跳んだりせず、徐々に強度を上げます。
- 薬を使うときは主治医に相談を ― 抗菌薬などで腱の痛みが出た場合は、早めに医師へ伝えてください。
よくある質問
アキレス腱が切れても、歩けることはありますか?
あります。他の筋肉の働きで足首を動かせるため、断裂していても歩ける方は珍しくありません。つま先立ちができない、踵の上にくぼみがあるなどの場合は、歩けても受診してください。
手術と手術をしない治療、どちらがよいですか?
一概にどちらが良いとは言えません。保存療法は手術のリスクを避けられ、手術は再断裂のリスクを下げられる可能性があります。年齢、活動レベル、断裂の状態、ご希望を踏まえて、一緒に相談して決めます。
治るまでにどれくらいかかりますか?
日常生活に戻るまでに数か月、スポーツへの本格復帰には半年前後かかるのが一般的です。個人差が大きく、リハビリの進み具合で変わります。
また切れることはありますか?
治療後の再断裂や、反対側の断裂の可能性はゼロではありません。腱と筋力が十分に回復してからの復帰と、ストレッチなどの予防が大切です。
子どもや学生でも起こりますか?
成長期の子どもでは、アキレス腱そのものよりも踵の骨の成長部分(シーバー病など)に痛みが出ることが多く、アキレス腱断裂はまれです。ただし、強い衝撃や力の入りにくさがあれば、年齢にかかわらず受診してください。
受診のタイミングはいつですか?
断裂が疑われるときは、できるだけ早く(可能なら受傷当日〜数日以内)の受診をおすすめします。時間がたつと腱の両端が離れ、治療が難しくなることがあります。
岸谷整形外科クリニック
アキレス腱の痛みや、「切れたかもしれない」というお悩みは、お気軽にご相談ください。当院では医師の診察・X線検査に加え、超音波検査・オープンMRI・体外衝撃波治療(ESWT)・ハイドロリリース・理学療法士によるリハビリを組み合わせた診療を行っています。
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療を行うものではありません。症状がある場合は医師の診察を受けてください。
最終更新日:2026年10月
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