突き指について
以下に「突き指(Jammed Finger / Sprained Finger)」の概要をまとめます。
■ 突き指(捻挫・脱臼・骨折の可能性を含む外傷)
■ 定義
突き指とは、指先に外力が加わり、指関節(特にPIP関節=近位指節間関節)を過伸展または屈曲させる外傷の総称であり、単なる捻挫に限らず、靭帯損傷・腱損傷・脱臼・骨折を含む可能性がある。
■ 原因
ボールや物体が指先に当たる(スポーツ中が多い)
手を突いた際の衝撃
指の誤った使い方による過伸展・過屈曲
■ 損傷のタイプ
靱帯損傷(捻挫)
→ PIP関節が最も多い。腫脹・圧痛・可動痛あり。腱損傷
→ 例:マレットフィンガー(DIP伸展不能)・ボタネール変形(PIP屈曲不能)など脱臼
→ PIPまたはDIP関節の関節脱臼。しばしば整復が必要。骨折
→ 基節骨・中節骨の裂離骨折や関節内骨折もあり
■ 検査
視診・触診・徒手検査
X線(必須):骨折・脱臼の有無確認
エコー:腱断裂の評価に有用
■ 治療方針
✅ 軽度捻挫
RICE処置(Rest, Ice, Compression, Elevation)
テーピングまたは副子(1~2週)
可動域訓練は早期開始
✅ 中~重度損傷(脱臼・骨折・腱断裂)
整復+固定(アルフェンスやスタッキースプリント)
必要に応じて整形外科的手術
マレットフィンガー:DIP伸展位固定6〜8週間
■ 注意点
「突き指」として放置される中に骨折・腱断裂・脱臼が隠れていることが多い
正確な診断と早期治療が、変形拘縮や機能障害を防ぐカギ
スポーツ復帰時期は腫脹・疼痛の軽減と可動域・握力の回復を目安に
「突き指」の中でも、手術適応となるケースは以下のような重症例や整復不能例、機能障害を伴う場合に限られます。
■ 手術適応となる「突き指」例(代表的疾患ごと)
① マレットフィンガー(槌指)
● 病態
DIP関節の伸展不能(伸筋腱断裂または末節骨裂離骨折)
● 手術適応
裂離骨片が大きく関節面の1/3以上を占める場合
骨片が転位している(関節内不安定)場合
保存療法でDIP関節の伸展が不良な場合
● 手術法の例
K-wire固定
小切開による骨片整復・固定
関節鏡視下手術も選択肢
② PIP関節脱臼・骨折脱臼
● 病態
中節骨または基節骨の裂離骨折、PIP関節の脱臼・不安定性
● 手術適応
整復後も不安定(再脱臼)
骨片が関節内で嵌入している場合
関節面の大部分を占める骨折を伴う脱臼
高度変形または拘縮を伴う陳旧例
● 手術法の例
関節内骨折の整復固定
靱帯再建または補強
小切開による関節整復
外固定や動的固定も併用されることあり
③ 腱損傷(屈筋腱・伸筋腱断裂)
● 病態
FDP腱(深指屈筋腱)断裂:DIP屈曲不能
中央索断裂や裂離:ボタネール変形、スワンネック変形
● 手術適応
完全断裂
断端が遠位へ大きく偏位している
若年者・スポーツ選手で握力や指機能の保持が必要
● 手術法の例
腱縫合術
腱移行・腱移植術(慢性期)
④ 関節内骨折(関節整復不良 or 骨片転位)
● 手術適応
骨片が関節面の30〜50%以上を占める場合
関節面の不整・ステップオフ > 1-2mm
関節の不安定性がある場合
● 手術法
骨片の整復固定(スクリュー、K-wireなど)
■ 手術適応の判断ポイント
関節の安定性
骨折や腱断裂の程度・転位の有無
年齢・職業・活動性(スポーツ選手など)
保存療法に対する反応・経過観察中の変化
ステナー損傷(Stener lesion)
概要
■ 定義
Stener lesion(ステナー損傷)とは、母指MP関節尺側側副靱帯(UCL)断裂において、断裂した靱帯の遠位断端が腱膜性の内転筋腱膜(アポニューローシス)に介在されて骨付着部に復位不能となった状態を指します。
■ 発生機序
母指を外反強制(例:スキーのストック、ラグビーなどでの衝突)された際にUCLが断裂
靱帯断端が内転筋腱膜の表層に乗り上がり、自然治癒不能な位置に転位
■ 解剖学的背景
UCL:母指MP関節の尺側に位置する靱帯。母指外転・外反ストレスを制御
内転筋腱膜:母指の内側に走行し、靱帯断端の「滑り込み」を防ぐ構造
Stener lesionでは、靱帯が内転筋腱膜の上に跳ね上がり、骨への再付着が不能
■ 臨床的特徴
母指MP関節の不安定性(特に外反ストレス)
腫脹、圧痛(MP関節尺側)
触診で「腱膜上の靱帯断端が隆起して触れる」こともあり
放置すると慢性不安定性・握力低下・疼痛・関節変形
■ 検査
ストレステスト:母指MP関節尺側へ外反ストレス(30度屈曲位)で不安定性
エコー:靱帯断裂部、腱膜との位置関係確認
MRI:Stener lesionの診断に有用(靱帯断端が腱膜上に位置)
X線:裂離骨片の有無確認(必須)
■ 治療
✅ Stener lesionあり(=靱帯断端が転位して復位不能)
→ 手術が必須(自然治癒しない)
手術法
靱帯再建または縫合(骨への固定:アンカーまたは骨トンネル)
必要に応じて腱膜の整復も併用
✅ Stener lesionなし、軽度不安定性
→ 保存療法(装具または副子固定 約4~6週間)
■ 予後
適切な手術で靱帯安定性・母指機能ともに良好な回復が見込める
放置や不完全治癒では慢性不安定・変形性関節症のリスク
■ 備考
「スキーヤーサム(Skier’s thumb)」または「ゲームキーパーズサム(Gamekeeper’s thumb)」としても知られる病態の一部
スポーツ選手や力仕事従事者では早期診断・治療が重要